この地図が答えていること/いないこと
Landsat 8/9 の熱赤外で 2013〜2026年の夏(7〜8月)を合成し、福岡市の建物に載せたもの。使ったデータはすべて無料で、アカウント登録も課金もありません。
これは気温ではありません
測っているのは地表面の温度 です。アスファルトや屋根の表面が何度になっているかで、天気予報の気温とは別物です。真夏の昼は舗装が50度を超える一方、同じ時刻の海面は29度前後になります。体感や熱中症に効くのはこちらの面の分布ですが、気温として読まないでください。
晴れた日の昼にしか測れていない
光学・熱赤外の衛星は雲を見通せないので、曇りと雨の日は欠測 です。撮影は太陽同期軌道で午前10時半ごろに固定されており、夜間や夕方の暑さは一切入っていません 。「夜まで熱が残る場所」を知りたい場合、この地図では答えられません。
屋根1枚より画素のほうが大きい
熱赤外センサーの分解能は約100m で、配布時に30mグリッドへ再配分されています。建物1棟の屋根は画素より小さい ので、この地図の値は「その建物の屋根の温度」ではなく「その建物の周囲90mの地面がどれくらい暑いか」 です。隣り合う建物が同じ値になるのはそのためで、細かい差は意味を持ちません。
検証できたことと、できないこと
型としてこの地図は「面を測る」もので、正解が存在しません 。誰も福岡市全域の地表面温度を実測していないので、答え合わせができない。当てられる3つを当てた結果が下です。3件のうち1件は、検定そのものが成立しませんでした。
作っている途中で間違えた測り方
どれもエラーを出さず、それらしい数字を返していました 。同じ罠は他の人も踏むはずなので残しておきます。
雲を外していなかった。 (以下の数字は、この地図を作る前に1枚のシーンで測っていたときのもので、上に出ている建物どうしの振れ幅とは別の量です。)面の振れ幅が 34.0 degC と出て、最低が 16.6 degC になった。真夏にありえない。雲は上空にあって冷たいので、熱赤外では「とても冷たい地面」として写ります。 QA_PIXEL で外したら 22.8 degC 、最低は 28.9 degC で海面水温と一致した
絶対温度で切った。 「45度以上が高温」で切ったら対象域の 53.8% が該当した。真夏の都市面はふつうに45度を超えます。閾値は絶対でなく、その画像の中での相対(分位)で置く のが正しい。この地図に「市内の順位」モードがあるのはそのためです
年ごとの枚数の差を無視しかけた。 使えるシーン数は年によって1〜8枚とばらつきます。全部まとめて中央値を取ると枚数の多い年だけが効く ので、年内の中央値を取ってから年をまたいで中央値を取る2段にしました
対象範囲が市域を覆っていなかった。 最初の枠だと市の南端の185棟がはみ出していた。「福岡市の」と名乗るなら市域を覆っていないといけない ので枠を直しました。現在も小呂島の201棟だけは40km沖合のため対象外です(欠測ではなく対象外)
同じ健康でも、スギ花粉は当てられませんでした
この地図(地表面温度)とは別に、同じ「健康」の用途でよく挙がるスギ花粉を、やはり無料のデータだけで3回測りました。3回とも届いていません。以下はその記録です。
正解は、双眼鏡で数えた雄花の数
春に飛ぶ花粉の量は、前の夏にスギが作った雄花の数 でほぼ決まります。その雄花を数えた調査が国にあります。環境省のスギ雄花花芽調査 で、各県の林業試験場が11〜12月に、林齢25〜60年のスギ林で40個体を双眼鏡で見て着花量を判定し、県ごとに過去10年平均との比(平年比) として公表しています。令和3〜6年度の4年ぶんで、条件のそろう 33県 × 4年 = 132標本 。
衛星側は、MODIS(Terra・1km・8日合成)の7月の地表面温度 を県ごとに平均し、その県の平年(2011〜2024年の7月)との差を取りました。「前年の夏が暑く日照が多い年に雄花が多い」という、林業側で言われている仕組みをそのまま当てにいく形です。
3回測って、3回とも届きませんでした
測り方 相関 判定
1回目 7月・昼 の温度・陸地ぜんぶ −0.133 符号が逆
2回目 7月・夜 の温度・冬のNDVIで作った「常緑林」 +0.333 → +0.264 偶然の線 0.265 と同じ
3回目 7月・夜の温度・植生図のスギ植林 (今回) +0.227 上がらなかった
2回目の「+0.333 → +0.264」は、生の値がそのまま使えなかった という意味です(理由は下の囲み)。使える側の +0.264 は、24通りの組み合わせを総当たりしたときに偶然出る範囲(0.265)とぴったり同じでした。
いちばん効くと思っていたマスクが、効きませんでした
2回目までの森林マスクは「冬にNDVIが高い=常緑林」という代理 で、スギ・ヒノキとは限りません(西日本の照葉樹林も竹林も入る)。ページにもそう書いて残していた1点です。今回はそこを本物に替えました。環境省の現存植生図2024 (1/25000)は凡例に「スギ・ヒノキ・サワラ植林」を持っていて、北海道を除く10ブロック(7.6GB)を落として、スギ植林の 708,985区画 ・約 7.4万 km² を抜き出し、5.5km格子ごとの面積率にしました。全国のスギ・ヒノキ人工林の面積とほぼ合います。
走らせる前の予測は「相関が上がる」。結果は下がりました 。マスクによって使える県が変わるので、同じ96点に揃えて比べ直すと、こうなります。
7月・夜の温度をどこで測るか 年内相関(同じ96点)
マスクなし(陸地ぜんぶ) +0.314
常緑林(冬のNDVI・代理) +0.268
スギ植林が50%以上の格子 +0.255
スギ植林が25%以上の格子(凍結した主指標) +0.250
林の場所を正確にするほど、わずかに下がる。理由は測っている量のほう にありました。県平均の偏差で見ると、スギ植林だけで測った値と陸地ぜんぶで測った値は相関 0.980・差の中央値 0.111 K しかありません。7月の気温のように広くなだらかな量 は、マスクを厳しくしても平均がほとんど動かず、格子が減るぶん雑音だけが増えます 。マスクが効くのは、測る量が場所ごとに大きく違うときだけでした。
4年のうち1年は、符号が逆
プールした +0.227 は、偶然では説明できません(県の並びを4年そろえて入れ替える並べ替えで p = 0.011 、2000回)。緯度を統制すると +0.265 に上がります。それでも年ごとに測ると 2021年 +0.25 / 2022年 −0.27 / 2023年 +0.28 / 2024年 +0.45 で、1年は逆を向きます 。来年の花粉を当てる道具にはなりません。
福岡だけを見ると、4年とも向きが合っています(図の朱色)。2021年 −0.31K で −36% 、2022年 +0.15K で +55% 、2023年 −0.77K で −2% 、2024年 +0.46K で +78% 。ただし4点しかないので、まったくの偶然でも8回に1回は4年そろいます 。ここから「福岡では当たる」とは言えません。
-100% +0% +100% +200% +300% -1 K +0 K +1 K 青森 2021年 +1.00K +16% 岩手 2021年 +0.66K +82% 秋田 2021年 +1.20K +90% 宮城 2021年 +1.00K -34% 山形 2021年 +1.72K -60% 福島 2021年 +1.80K +64% 茨城 2021年 +1.07K -18% 栃木 2021年 +0.25K -18% 群馬 2021年 +0.96K -58% 埼玉 2021年 +0.92K +14% 千葉 2021年 +0.47K +30% 東京 2021年 +0.34K +40% 神奈川 2021年 -0.40K -8% 新潟 2021年 +1.57K +60% 富山 2021年 -0.74K +76% 石川 2021年 +0.04K +52% 福井 2021年 -0.78K +56% 静岡 2021年 -0.37K -20% 愛知 2021年 -0.93K -18% 大阪 2021年 -0.21K -10% 兵庫 2021年 -0.63K +26% 奈良 2021年 -0.43K -60% 岡山 2021年 -0.67K +18% 鳥取 2021年 -0.62K -64% 島根 2021年 -0.18K -58% 広島 2021年 -0.37K -2% 山口 2021年 -0.08K -50% 香川 2021年 -1.45K -18% 愛媛 2021年 -1.51K -52% 徳島 2021年 -1.19K -4% 高知 2021年 -1.09K -44% 大分 2021年 -1.03K +14% 青森 2022年 +0.69K -37% 岩手 2022年 +0.77K -82% 秋田 2022年 +1.14K -67% 宮城 2022年 +0.92K -70% 山形 2022年 +0.42K -62% 福島 2022年 +0.20K +42% 茨城 2022年 +0.25K +32% 栃木 2022年 -0.29K -48% 群馬 2022年 -0.43K -20% 埼玉 2022年 -0.22K -34% 千葉 2022年 +0.10K -5% 東京 2022年 -0.14K +14% 神奈川 2022年 +0.27K +58% 新潟 2022年 -0.16K +48% 富山 2022年 -0.35K +85% 石川 2022年 +0.32K +39% 福井 2022年 -0.03K +28% 静岡 2022年 +0.05K +2% 愛知 2022年 -0.32K -26% 大阪 2022年 -0.41K -32% 兵庫 2022年 -0.39K -1% 奈良 2022年 -0.14K -15% 岡山 2022年 -0.12K +68% 鳥取 2022年 -0.35K +104% 島根 2022年 -0.24K +142% 広島 2022年 -0.07K +17% 山口 2022年 -0.47K -42% 香川 2022年 -0.00K -43% 愛媛 2022年 -0.61K -42% 徳島 2022年 -0.11K -92% 高知 2022年 -0.28K -62% 大分 2022年 -0.14K +33% 青森 2023年 -0.45K -31% 岩手 2023年 +0.69K +73% 秋田 2023年 -0.72K -27% 宮城 2023年 +1.19K -9% 山形 2023年 +0.37K -59% 福島 2023年 -0.54K +22% 茨城 2023年 +0.35K -58% 栃木 2023年 +0.77K -11% 群馬 2023年 +0.68K -20% 埼玉 2023年 +1.27K +26% 千葉 2023年 +0.02K +9% 東京 2023年 +0.74K +30% 神奈川 2023年 +0.30K +7% 新潟 2023年 +0.31K +14% 富山 2023年 +0.25K +14% 石川 2023年 -0.33K -8% 福井 2023年 +0.22K +3% 静岡 2023年 -0.22K -24% 愛知 2023年 +0.13K +84% 大阪 2023年 +0.18K +15% 兵庫 2023年 +0.00K +41% 奈良 2023年 +0.11K -24% 岡山 2023年 +0.06K +3% 鳥取 2023年 +0.14K +20% 島根 2023年 -0.23K +74% 広島 2023年 -0.35K -24% 山口 2023年 -0.84K -33% 香川 2023年 -0.10K -22% 愛媛 2023年 -0.63K -6% 徳島 2023年 -0.45K -47% 高知 2023年 -1.31K -44% 大分 2023年 -0.85K +1% 青森 2024年 -1.02K -110% 岩手 2024年 -0.31K -110% 宮城 2024年 -0.33K -87% 秋田 2024年 -1.40K -73% 山形 2024年 -0.56K -111% 福島 2024年 -0.00K -44% 茨城 2024年 -0.07K -17% 栃木 2024年 +0.06K -9% 群馬 2024年 +0.81K -31% 埼玉 2024年 +0.67K -29% 千葉 2024年 -0.04K +39% 東京 2024年 +0.58K -65% 神奈川 2024年 -0.20K +8% 新潟 2024年 -0.45K -38% 富山 2024年 +0.30K -36% 石川 2024年 -0.81K -39% 福井 2024年 +0.31K -52% 静岡 2024年 +0.13K +79% 愛知 2024年 +1.23K +46% 大阪 2024年 +0.86K +356% 兵庫 2024年 -0.05K -33% 奈良 2024年 +0.62K +294% 鳥取 2024年 -1.13K +15% 島根 2024年 -0.69K +9% 岡山 2024年 -1.14K -23% 広島 2024年 -0.35K -33% 山口 2024年 +0.29K -33% 徳島 2024年 +0.62K +103% 香川 2024年 +0.71K -47% 愛媛 2024年 +0.62K +38% 高知 2024年 +0.26K -16% 大分 2024年 +0.06K -22% 福岡 2021年 -0.31K -36% 2021 福岡 2022年 +0.15K +55% 2022 福岡 2023年 -0.77K -2% 2023 福岡 2024年 +0.46K +78% 2024 132点=33県×4年(令和3〜6年度)。横軸はスギ植林の格子だけで測った7月の夜の地表面温度で、その年の33県の平均を引いた値。縦軸は雄花量の平年比から同じように年平均を引いた値。破線は回帰直線で傾き 22 %/K 、相関 +0.227 。朱色は福岡 の4年で、年を添えています。年ごとに測ると 2021年 +0.25 / 2022年 -0.27 / 2023年 +0.28 / 2024年 +0.45 と、2022年だけ符号が逆になります。
走らせる前に凍結した予測と、結果
凍結した予測 結果 判定
スギ植林マスクにすると年内相関は +0.264 より上がる(+0.26〜+0.36) +0.227(同じ標本でも 0.250 対 0.268) 外れ
25%以上と50%以上の差は 0.05 未満 0.227 対 0.281(差 0.054)。標本を揃えると 0.250 対 0.255 外れ
スギの格子が5つ以上ある県は35県以下・標本150未満 44県。標本は2025年の衛星が無く判定不能 外れ
プラセボ(県のスギ面積率そのもの)は |r| < 0.15 +0.046 当たり
昼の温度は |r| < 0.15 のままで、夜だけ効く 昼もスギマスクだと +0.22〜+0.28 外れ
5本中1本しか当たりませんでした。 ただし外れ方は全部同じ向きです。マスクを細かくしても良くならず、昼でも夜と同じくらい出る。どちらも「7月の気温はなだらかで、どこをどう測ってもほとんど同じ値になる」という一つの事情から出ています。
生の相関は、衛星の都合で上がっていました
2回目に出た「夜の温度で +0.333」は、Terra衛星が軌道を保たなくなったこと に乗っていました。NASAは2020年2月に最後の軌道維持を行い、以後Terraは通過時刻が早い方向へ漂流しています。夜の地表面温度の全国平均は 2011〜2019年は +0.083 K/年だったのが、2020〜2024年は +0.812 K/年 (9.8倍)。日本の気温の実測(0.2〜0.3 K/10年)の何十倍で、温暖化ではありません。対象の4年がまるごとこの期間に入っています。 そのため、ここに出した数字はすべて「その年の全国平均を引いたあと」の値です。無料の長期データには、こういう機器側の傾きが混ざります。
正解が増えても、衛星が無いことがある
令和7年度(2025年の夏)の調査は45県に増えて公表済みですが、衛星側がありません 。MOD11A2 は Planetary Computer で 2025年7月4日から11月24日までが世界的に欠けていて 、7月は6月26日始まりの1合成しか取れません(世界全域で検索して0件、2021年・2023年の同じ検索では5合成)。5年目を足す予定は、この穴で消えました。
有料の線
空から花粉を測る仕事に、国はすでに払っています。令和6年度「AI技術・リモートセンシング技術を活用した花粉観測手法の調査業務」が 1,772万円 (日本気象協会)、令和7年度「飛散予測の高度化に向けた航空レーザ計測・解析事業」が4件で 1億6,123万円 (国際航業・アジア航測・パスコ)。後者は衛星ではなく航空機 です。1本ずつのスギを見分ける仕事は、いまのところ衛星では買われていません。なお正解を作っている「スギ雄花花芽調査業務」自体は 528万円 (全国林業改良普及協会)で、双眼鏡の側がいちばん安い という並びになっています。
データと再現
熱赤外: Landsat Collection 2 Level-2 (USGS/Microsoft Planetary Computer 経由)。アカウント不要で署名URLが返る
換算: DN × 0.00341802 + 149.0 − 273.15 、雲マスクは QA_PIXEL の bit1〜4
Landsat 7 は除外。2003年以降 SLC-off で縞状の欠損があり、8/9 とは較正も違う ため、混ぜると「平年」が機器の差を測ることになります
建物: Project PLATEAU 福岡市2024 v4 LOD1(国土交通省・CC BY 4.0)
背景地図: 国土地理院タイル
花粉のぶんは別のデータです。
正解: 環境省 スギ雄花花芽調査 (令和3〜6年度の報道発表。県別の着花量と過去10年平均比)
スギ林の場所: 環境省 現存植生図2024 (G空間情報センター・公共データ利用規約(第1.0版) )。凡例名「スギ・ヒノキ・サワラ植林」。北海道を除く10ブロック
温度: MODIS MOD11A2 (地表面温度・1km・8日合成)、常緑林の代理マスクは MOD13A1 (NDVI)。いずれも Planetary Computer 経由でアカウント不要
県の境界: Nominatim / © OpenStreetMap contributors(ODbL)
予測は走らせる前に凍結しました(このサイトの後半のページと同じ作法)。凍結後に足した測り方は、本文でそう書いています