国土地理院が無料・ログインなしで公開している干渉SARの成果(約90m、2014〜2025年の平均速度)を借りて、福岡県を見ました。県内で一番速く沈んでいたのは北九州空港の島(年11mm)です。ところが年に数mmの桁では、筑後平野の水準測量(沈下)、電子基準点(沈下)、干渉SAR(隆起)が食い違いました。干渉SARの値は標高と強く結びついていて(順位相関 −0.64)、道路1本は分けられませんでした。
インフラ点検で衛星に期待されるのは「橋や道路や地面が何ミリ動いたか」です。前回の測定で、無料の Sentinel-1 の画像(跳ね返りの強さ)には変位そのものが入っていないことを確かめました。変位は干渉位相という別の量にしか無く、自前で作るには元データ(SLC)とアカウントと重い処理が要ります。
そこで国土地理院が無料で公開している干渉SARの成果を借りました。だいち2号・4号の2014年8月〜2025年11月の観測から、1年あたりの平均的な上下の動き(準上下方向の変位速度)を約90mの画素ごとに出したもので、2025年8月からログインなしで GeoTIFF を落とせます。年1回(3月末)の更新で、扱いは暫定値です。国土地理院自身が「数百m四方より狭い範囲の変動を把握することは困難」と書いています。
値を見る前に予測を5本凍結しました。符号の向きは、沈むことが知られている大分県の八丁原(地熱発電所)が −6.0 mm/年と出ることで確かめています。
年10mm以上の沈下が固まって出たのは、福岡県内で2か所だけで、どちらも北九州空港の島の上でした。南側の区画が −11.3 mm/年(0.16 km²)、北端の池の縁が −10.5 mm/年です。

北九州空港は、関門航路の浚渫土で造った海上空港です(2006年開港)。滑走路と中央のターミナルの区画は動いておらず、沈んでいるのは南側の区画と、今も土を入れている北側の池の縁です。後で述べる「低い土地ほど隆起に出る」癖に逆らって沈んでいるので、本物の沈下と考えてよさそうです。数百mの広がりで年1cm前後。無料の成果で見えるのは、この大きさの動きです。
県が地盤沈下の観測地域にしている筑後の6市町では、環境省の表にある水準測量で最も沈んだ3点が、10年で4.2〜5.5cm(年4〜6mm)沈んでいます。予測は「干渉SARでも、6市町の下位1%点が −3〜−10 mm/年に入る」でした。
干渉SARの中央値は6市町すべてで隆起(+1.1〜+3.1 mm/年)で、−3 mm/年より速く沈む画素は1つもありませんでした。下位1%点は −1.6 mm/年で、予測は外れです。「年2cmより速い沈下は無い」という予測だけは当たりました(0%)。
地形でも同じでした。埋立地は沈むはずだと考え「盛土地・埋立地は山地・台地より2mm/年以上低い」と予測しましたが、盛土地・埋立地の中央値は +1.8、山地・台地は +0.2 で、逆向きです。同じ標高の自然の低地と比べても、埋立地のほうが0.3〜0.7 mm/年高く出ました。
ここからは凍結していない比較です。電子基準点(GNSS)の上下の動きを、ネバダ大学の公開解析から同じ期間で出しました。凍結のときは「国土地理院の成果は電子基準点で補正してあるので、検算にならない」として外していた比較です。
40局の中央値は GNSS が −2.7 mm/年(沈下)、同じ場所の干渉SARが +0.7 mm/年(隆起)で、局ごとの順位相関は −0.07。基準の取り方(水準測量は日本水準原点、GNSS は地球全体の座標系、干渉SARは国土地理院の補正)が違うので、全体が一律にずれるのは説明がつきます。しかし局ごとの沈み方の違いを、干渉SARはまったく追えていません。
地図を「標高」に切り替えると分かります。赤い「隆起」は平野に、青い「沈下」は山に重なります(これも凍結していない点検です)。
福岡県の陸で、標高と干渉SARの速度の順位相関は −0.64。海抜0〜5mで +1.7 mm/年、800m以上で −1.4 mm/年と、高くなるほど順に下がります。−5 mm/年以下の塊は、北九州空港のほかは森におおわれた山の尾根(小倉南区の山地、香春町、玄界島の丘)でした。
干渉SARで知られている誤差の1つに、標高と一緒に変わる大気の遅れがあります。それが年に数mmの桁で残っているのかもしれませんが、確かめていません。
自前の振幅についての予測(振幅の傾きと速度の順位相関は |ρ| < 0.1)は、−0.14 でわずかに外れました。ただし標高を除くと 0.04 に落ちます。振幅も速度も標高と結びついていただけで、振幅に変位の情報が無いことは変わりません。
筑後の軟らかい地盤の上を走る有明海沿岸道路で、道路の上の画素の速度から両側150〜450mの速度を引きました。予測は「同じ形の線を1〜3km横にずらした偽の線と区別できない」です。
本物の道路は −0.01 mm/年で、偽の線74本の5〜95%(−0.08〜+0.06)の中でした。予測どおりです。偽の線の幅がこれだけ狭いのは、成果が数百mの範囲でならされていて、道路1本ぶんの細さの模様をもともと持っていないからです。
予測の成績は5本中2本でした(年2cmより速い沈下は無い・道路は分けられない)。
無料の成果で見えたのは、数百mの広がりで年1cm前後の動き(北九州空港の島)までです。見えなかったのは3つあります。構造物1つ(画素が約90m)、年に数mmの確かな値(水準測量・GNSS・干渉SARが2〜6mm/年食い違う)、そして今年の変化(11年の平均で、更新は年1回)です。
橋や盛土1本ずつの動きを見張るには、1〜3mの細かいSAR画像で、構造物の角のように安定して強く跳ね返る点を追う解析(PS干渉SAR)が要り、これは商用のサービス(有料)です。自前で位相を作る道(Sentinel-1 の SLC)はデータ自体は無料ですが、アカウントと重い処理が要り、画素は約5×20mです。
そして年に数mmを確かに言うための基準は、今も地上の水準測量と電子基準点です。今回はその2つとも、干渉SARとは違う答えを出しました。